鈴姫
力のなくなった桜姫の手をそっと離すと、桜姫を抱きかかえて部屋を出た。
火の手はすでに渡殿を侵食し、二人に襲いかかろうとしていた。
火の子を払いのけながら庭を横切り、塔へ向かって走った。
池に沿って走り、塔の下にたどり着くと、桜姫を柔らかな草の上に寝かせた。
池を挟んだここなら、火はまわってこない。
桜姫のまだぬくもりの残っている頬に触れると、顔を険しくして塔の中に入った。
階段を一気に駆け上がり、勢いよく最上階の扉を開けた。
祈りの間。
そこにいる人物を見て、香蘭ははっとした。
秋蛍のほうは何も動じず、窓辺に佇む男に向かって大きな声をあげた。
「どういうつもりだ!」
秋蛍の声に、男はゆっくりと振り返った。
「秋蛍」
昭遊は、何が楽しいのか口角をあげ、秋蛍を見据えた。
「どうしたんだ?」
「とぼけるな。桜姫を殺しただろう」
「俺が?」
「桜姫の体には傷ひとつなかった。毒を飲まされたわけでもない。あんな風に生気を奪えるのは、今は俺の他にお前しかいない」