鈴姫
助けたいのに、助けることができない。
触れたいのに、触れることができない。
このままでは、秋蛍が殺されてしまう。
余裕の表情で昭遊がこちらに近づいてくる。
彼はどうしてこの香りが平気なのだろうと思い、すぐに彼が香壺を司る者だということを思い出した。
さっと部屋の隅に目をやると、鏡は布をかけられ、さらに紐を幾重にもかけられていた。
秋蛍はこのままでは対抗できない。
どうしたらいいかわからず、香蘭は泣きながら秋蛍を庇うようにして昭遊の前に立ちはだかった。
こんなことをしても、昭遊に姿は見えないし、攻撃から秋蛍を守ることができるわけでもない。
力になれない自分が、ひどくもどかしい。
昭遊が秋蛍の首に手を伸ばしたそのときだった。
部屋の中央に奉られていた短刀が、香蘭の足元、つまり秋蛍の手のすぐ先に転がってきた。
ひとりでに、すうっと。
秋蛍の首を絞めようとしている昭遊はそのことに気づいていない。
秋蛍は力を振り絞り短刀を手にとると、迷いもなく昭遊の背中に突き刺した。