鈴姫
「ぐあああっ!!」
昭遊は顔を歪め、秋蛍の首から手を離した。
秋蛍は素早く短刀を引き抜き、剣先を昭遊に向けて対峙した。
昭遊は顔を青くして、短刀を凝視している。
「どうして、それが…」
「お前は見限られたんだ。罰を受けろ」
秋蛍は混乱している昭遊隙をつき、短刀を昭遊の胸に突き立てた。
昭遊はよろめいて窓から落ち、池の中へと沈んでいった。
血だらけの短刀は秋蛍の手元に残った。
秋蛍は肩で息をしながら短刀を見つめ、頬についた返り血を拭うと、部屋の隅で紐に括られている鏡を解放した。
そして塔を下り、桜姫のもとへ戻った。
桜姫を抱えると、塔の裏にある森の中へと入っていき、しばらく進んだところで桜姫を降ろした。
花を摘み、桜姫の白い手に花を握らせると、秋蛍は桜姫の隣に跪いたまま、彼女を見つめた。
その、悲しみを湛えた姿を見守りながら、香蘭は胸が苦しくなるのを感じた。
この人は本当に桜姫が好きで、何より大事だったのだというのが伝わってきた。
秋蛍は最後に桜姫に口づけを落とし、立ち上がった。
その手には短刀が握られたままだった。
秋蛍は桜姫を残し、森から出た。