鈴姫
ハルはすべてわかっているらしかった。
彼がこれからどうしようとしているか。
「‘願いの鏡’…。そうか。ちょうどよかった」
彼は驚いてはいたが、すぐに受け入れたのはさすがだった。
秋蛍はハルをじっと見据え、彼女に訴えかけた。
「この国は滅びるが、俺にお前たちを封印するほどの力は残っていない。各自これはと思うものを王とし、国を興せ。力を分散させろ」
ハルが頷くと、秋蛍は満足そうに笑みを浮かべた。
その笑みがあまりに美しくて、悲しくて、香蘭は胸が張り裂けそうだった。
秋蛍は手にしていた短刀を自らの胸に突き刺し、命を絶った。
部屋の隅でその様子を見守っていたハルは秋蛍のところへ近づき、祈りを捧げるように彼の額に触れた。
「秋蛍…。さようなら」
ハルがそう呟いた途端、香蘭は体がどこかへ勢いよく吸い込まれるような感覚とともに、今まで見えていた世界からはじき出された。
暗闇の中に放り出され、体は引っ張られ続ける。
あまりの気持ち悪さに、気を失ってしまった。