鈴姫
秋蛍に刃を向ける憂焔の姿を見て鼻で笑い、宝焔は香蘭のほうを向いた。
宝焔と目が合い、香蘭は身震いをして後ずさった。
宝焔の瞳の奥に、とてつもなく冷たいものが宿っているのを感じ、寒気がした。
「僕はそこの姫に用があるんだ」
宝焔は戦っている憂焔と秋蛍を尻目に、真っ直ぐ香蘭に近寄ってきた。
珀伶が香蘭を背後の庇い、剣先を向けても、宝焔は楽しそうな顔で手を伸ばしてきた。
ハルが宝焔を睨みあげながらきゅっと香蘭の服を掴む。
「桜姫の魂を受け継ぐ女の血……あれを目覚めさせるにはうってつけだ」
「香蘭!」
剣を振り上げながら憂焔が叫んだ。
秋蛍は憂焔の剣を跳ねのけると、一瞬のうちに香蘭の前に現れ、宝焔を蹴り飛ばした。
宝焔は壁に打ち付けられ、顔を歪めて右腕を押さえている。
珀伶は驚いた顔をしていたが、香蘭は秋蛍がどうやってここまで来たかすぐにわかった。
秋蛍がハルをちらりと見ると、ハルは頷いた。
秋蛍は懐から何かを取り出して香蘭に渡すと、珀伶に香蘭を押し付けた。
「珀伶皇子、『桜姫』をここから逃がせ」
秋蛍の言葉に、香蘭は渡された手鏡に視線を落とした。
いつのまにか落としていた鏡を、秋蛍が拾っていてくれていたらしい。