鈴姫


珀伶が秋蛍の指示通り、香蘭の手をとると、香蘭はハルのほうを見た。


ハルは香蘭の視線に気が付くと、いつもの笑顔で、ひらりと手を振った。


「あたしはここにいるね。秋蛍を助けなきゃ」


「うん。憂焔も助けてね?」


「大丈夫よ」


宝焔を見るとちょうど腕を庇いながら体を起こしたところで、怒りを含んだ目でこちらを見てきた。


ハルが急いでというように香蘭の背中を押し、また戦闘を始めた憂焔と秋蛍のことが気になりながらも、珀伶とともに部屋を抜け出した。


「香蘭、あの者たちはきっと大丈夫だ。私たちは私たちのやるべきことをしよう」



「うん……」


香蘭は走りながら、手鏡に視線を落とした。


流れを抑えた鏡に映る顔は、ひどく苦しそうな顔をしている。

鏡をぎゅっと胸に押し付けると、さきほどの秋蛍の言葉が頭の中に蘇ってきた。


香蘭は胸の内に感じるものに気づき、込み上げてくる涙を堪えた。


そして自嘲ぎみにくすりと笑う。


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