鈴姫
映像が消え、香蘭はゆっくりと目を開けた。
「お父様……」
涙が次から次へと溢れて止まらない。
地面にへたり込み、まだ温かい鈴帝の手を、香蘭は力強く握りしめた。
「……」
珀伶は沈痛な面持ちで、鈴王の手を握る香蘭を見つめている。
「見せるべきかどうか、迷いました。ですが、これが真実ですので。香蘭さまのためにも、鈴帝さまのためにも」
トオルは鈴王の頬から手を離し、二人から離れた。
王が死んでも、兵は止まらない。
この地に蔓延る狂気に侵され、血を求め、踊るように剣を振るう者たちの喧騒が取り巻く中、香蘭はひたすら、冷たくなっていく鈴王に縋り付いていた。
「香蘭!」
王宮の奥から、憂焔が走ってきた。
皆憂焔に顔を向け、息を切らす憂焔を見守る。
憂焔は肩で息をしながら、真剣な顔つきで事を告げた。
「まずいことが起こったんだ。池の中に変なのが棲んでたらしくて、それが暴れ出して。秋蛍の奴が、お前を連れてこいって……」
憂焔はそこでようやく、香蘭の様子がおかしいことに気が付いた。
続いて、倒れている鈴王を見て目を見張る。
「……どうしたんだ?」
憂焔は珀伶とトオルに答えを求めたが、二人とも心苦しそうな表情をして下を向いてしまった。
困惑しながら三人を見ていると、香蘭が鈴王から手を離し、立ち上がった。
そして、涙を拭い、笑顔を向ける。
「大丈夫よ、憂焔。わたしがすべてを終わらせるから」