鈴姫
「秋蛍さま!」
「掴まれ」
伸ばされた手を取り、引き上げられる際、香蘭はちらりと下を見た。
香蘭の足に絡みついていた手が、縮むようにしてするすると池の中に入っていく。
「あれは……」
「昭遊が最後の力を振り絞って創ったのだろう。あいつの気を感じる」
昭遊。
香蘭はハルの中で見たものを思い出し、表情を暗くした。
秋蛍はそんな香蘭の様子に気づき、彼女のほうに顔を向けた。
「ハルから聞いた……。お前は、俺の過去を知っていると」
「……はい」
二人とも視線を合わさず、沈黙が続いた。
秋蛍の背後で、ハルが憂焔と珀伶に何か話しているのが見えた。
二人は神妙な面持ちでハルの話に耳を傾けている。
やがて秋蛍がぱっと池のほうに視線を戻した。
「あの剣に力を籠めて魔物を抑えた。だが、ただの時間稼ぎだ。あれはすぐにまた動きだす」
香蘭も池の方を見た途端、爆発音が轟き、そのあとすぐに今しがた香蘭たちが来た方向から大勢の人の声が聞こえてきた。
どうやら門を壊して兵たちが中に侵入してきたようだ。