鈴姫
普段は袖を通さないような着物を香蘭は纏う。
真紅の生地に金や緑や黒の糸で素晴らしい花の模様が織り込まれたその着物は、美しいとしか言いようがない。
「香蘭姫様、香国に行かれるのですってね」
「まさかそのような髪で嫁ぐことができるなんて、憂焔王子は物好きでございますのねぇ」
また、今日も侍女の嫌味から一日が始まる。
侍女たちはとりあえず形だけは香蘭の髪に櫛をとおしてやったり帯をしめてやったりしているけれども、荒々しく丁寧とは程遠い。
聞きなれた嫉妬まじりの声音に、香蘭はくすっと笑った。
ええそうよ、憂焔は物好きだわ。
ふつういないわよ。
髪が短い姫を妃にするなんて……
「俺は物好きってわけじゃないぜ。俺の国じゃ、短い髪の女はごろごろいる」
「憂焔皇子!」
侍女たちはぎょっとして櫛を落とし、音もなく部屋に入ってきた憂焔を目をまるくしてみつめている。
ぎょっとしたのは香蘭も同じだ。