鈴姫
「刀を渡してくれ。俺が魔物を討つ」
「そうしたら秋蛍さまは、どうなるのですか」
香蘭は秋蛍の目をじっと見つめて、刀を遠ざけるように一歩後退した。
秋蛍は眉を下げ、香蘭から目を逸らした。
「俺は……」
そしてまた、香蘭と目を合わせる。
「行くべきところに、行くだけだ」
翡翠の目に真っ直ぐに見つめられて、香蘭は喉を鳴らした。
そして刀をぎゅっと握りしめ、首を弱く横に振った。
「やっぱり、嫌……」
池の底から、大きな力を感じる。
そしてそれは、兵を引きこんでいくたびに増大している。
あれを討つのは、短刀の力だけでは間に合わないというのを香蘭は感じとっていた。
短刀の放つ光のせいか、黒い手は二人を襲えないようだ。
光を浴びると苦しそうにうねり、離れていく。
光に守られる中、二人は黙って見つめ合った。
秋蛍が手を伸ばしてくると、香蘭は短刀を抱きかかえ、奪われないように身構えた。
しかしその手は香蘭を引き寄せ、香蘭を腕の中に閉じ込めた。
香蘭は驚きに目を見開いたが、すぐにじわりと目に涙を浮かべた。
こんなに、暖かくてまるで人間のようなのに……