鈴姫
「リン!」
先に行っていたはずのハルが、廊下の奥から香蘭のところへ駆けてきた。
座り込む香蘭の腕をぐいっと引っ張って、池の向こうにある塔を指し示した。
「あの塔の、祈りの間へ行こう。あたしたちの力を全部解放して、秋蛍を援護する。憂焔と珀伶はもう始めてるよ」
「援護……?」
「秋蛍のためにできることを、やらなくちゃ。―――できるなら、死ななくてすむように」
まだ、望みはある。
香蘭は頷き、ハルの手を取って立ち上がった。
「行くよ」
駆けだしたハルのあとを懸命に追って、塔を目指した。
塔へ向かうには、池のそばを通らなくてはならなかった。
池の中から伸びてくる手をよけながら走っていると、すべての手が池の中にひっこんだ。
何が起こったのかと走りながら池に視線をやった途端、手ではなく黒い玉が飛び出してきて、陸地にあがるとそれは歪なヒトの形のようなものに姿を変えていった。
幾体もの黒い塊がうねうねと歩くようにして香蘭たちを追ってくる。
君の悪さにぞっとしながら香蘭は一生懸命走った。
秋蛍さまは―――?
あれがまだ池の中から出てくるということは、何の負傷もないということだ。
一体、池の中に飛び込んだ彼はどうなっているのだろう。