鈴姫
涙を浮かべながら、香蘭は塔の最上階を目指した。
魔物の近づいてくる音がする。
どんどん近づいてくる音に恐怖を感じながらも香蘭は必死に階段を駆け上り、祈りの間へとたどり着いた。
魔物が入り込む前に、ハルがさっと扉を閉める。
「もう大丈夫。ここには結界が張ってあるから」
ハルが言った通り、閉じられた扉が打ち破られることはなく、扉の向こう側に黒い物体が迫っていることなど感じさせないほどに静まり返っていた。
胸を撫で下ろして振り返ると、祈りの間の中央でトオルとカオルが背中合せに立っており、二人から淡い光が発せられている。
その二人を囲むようにして憂焔と珀伶が目を閉じて座っていた。
「皆、秋蛍が戦いやすいように力を送ってる。リン、あたしたちも急ごう」
「どうしたらいいの?」
「祈って。あれを倒したいって、強く願いながら」
「わかったわ」
頷いて、優焔たちに混じってハルたちを囲み、座ろうとしたときだった。
背後で大きな音がしたと思ったら、香蘭は体が締め付けられて動けなくなった。
窓の結界を突き破った黒い手が伸びてきて、香蘭の体に巻きついたのだ。
落ちる――!
「香蘭!」
憂焔が伸ばした手は虚しくもぎりぎりのところで届かず、指先が掠めただけだった。
そのまま香蘭は池の中に放りこまれてしまった。