鈴姫
「秋蛍さま……」
「どうしてここに」
秋蛍は眉を寄せ、香蘭を見た。
「あの手に、捕まってしまって」
怒っているような表情をしている秋蛍から目を逸らして言うと、小さくため息が聞こえてきた。
「お前を地上まで運ぶ。つかまってろ」
「い、嫌です!」
香蘭は急いで首を横に振り、秋蛍の腕から逃げようとした。
「ここまで来たからには、直接手伝わせてください。あなたの力になりたいのです」
「だめだ。上にいろ」
「これであなたに何かあったら、わたしは永遠に後悔致します!」
香蘭は秋蛍をじっと見つめた。
この人を一人、ここに残していくことなんてできない。
力になりたい。
彼を助けたい。
秋蛍は黙って香蘭と目を合わせていたが、やがて目をそらした。
「守れる自信が、ないんだ」
「守る必要なんかありません!わたしは……」
言いかけた言葉を飲み込んで、香蘭はふっと肩の力を抜いた。
「秋蛍さまは、笙鈴さまのことを……ずっと、想っていらしたのですね」
笙鈴の短刀は相変わらず光を放ち、二人を魔物から守っていた。
秋蛍は黙って下を向いていたが、やがて顔をあげた。
悲しそうな、切なそうな、そんな顔で。
見たことがない秋蛍の表情に、香蘭は唇を噛んだ。
やっぱり、わたしごときでは敵わない……