鈴姫
「憂焔!あなた何してるのよ、着替えているのに勝手に部屋に入ってこないで!」
憂焔は香蘭ががなっているのにも構わないで、ずかすかと奥までやってくると、足元に落ちている櫛を拾い上げた。
「香蘭の支度が遅すぎるから様子を見に来てやったんだよ。なんだよ、まだ髪も結ってないのか」
それはこのひとたちが遊んでいたからよ、とは言わずに香蘭はふいと顔を背けた。
憂焔は香蘭をじっと見ていたが、なにか思いついたような顔をすると、侍女たちに指示をだした。
「悪いけど、あとは俺がやるからお前たちはでていってくれないか」
「えっ?」
これには香蘭も侍女たちも、揃って憂焔を見る。
憂焔は手の中の櫛を弄びながら、にっと笑う。
侍女たちは憂焔に促されて、戸惑いながらも部屋を退出した。
憂焔と部屋に二人残った香蘭は、首を傾げながら憂焔のそばに寄った。
「憂焔、髪結えるの?」
「結えねぇよ」
俺は男だぞ、と胸を張って即答する憂焔に、香蘭はあきれた声をあげた。
「よくもまあ、それで俺に任せろなんて言ったわね。どうするのよ、これじゃ……」
「あいつら、お前をいじめてたんだろ」
真剣な目が香蘭をとらえて、一瞬怯んだが、すぐに首を横に振った。
「いじめてたんじゃないわ。いつものことよ」
「いつものこと?ありえないだろ、それは。王族相手だぜ」