鈴姫
「憂焔、鏡の王女殿がお呼びだよ」
「お前がこっちへ来いと伝えてくれ」
「足を挫かれているんだ。お前は怪我をしている女性を歩かせる気なのか」
憂焔はちっと舌打ちをして、まだ乾ききっていない着物を掴むと香蘭を振り返った。
「香蘭はここで、ゆっくりしてていいからな」
香蘭が頷くのを見届けてから、珀伶とともに瓦礫の奥へと消えて行った。
ハルが彼らの背中を見送って、ぽつりと零す。
「きっと香国をこのあとどうするかについての話だね。だいぶ荒れてしまったもの」
過去の悲劇の舞台は、昔と同じように荒れ果ててしまった。
カオルとトオルもハルと同じようにしんみりした様子で、まだ火の燻る土地を眺めていた。
「ハル……」
香蘭は震える手を伸ばし、ハルの着物の袖を掴んだ。
「秋……魔物は、倒せたの……?」
ハルは、少し瞳を揺らしたあと、香蘭の手を優しく握ると穏やかに微笑んだ。
「きっとあいつは、救われたよ」
「……」
ただ、ハルの顔を見つめた。
頭がぼんやりとして、疲れと眠気が香蘭を襲う。
香蘭は胸の中に感じる悲しみに気づきながらも、深い眠りの中に引きずりこまれていった。