鈴姫
崩れ果てた王宮に残った火はすべて消火され、無残な遺体もハルたちの手によって葬られた。
蔓延っていた悪臭も重い空気も取り除かれ、被害を受けた町の復旧が行われ始めた。
香蘭が目覚めたのは、そんな中だった。
窓から差し込む眩しい光に、香蘭はゆっくり目を開けた。
誰かに優しく手を握られていて、それを辿っていくと微笑む珀伶がいた。
珀伶はほっとしたように息をつく。
「随分長いこと目を覚まさないから、心配したよ。あれから一週間経ったんだ」
「そんなに長く?」
窓の外を見ようとして体を起こすと、眠ったあととは思えないほど体が重く感じた。
それでもなんとか首を伸ばして外を見た。
どこかの町のようで、人々が朝の忙しさに動き回っているのが見える。
こどもが無邪気に犬を追いかけ、それを粉屋が迷惑がって喚き散らしている。
「ここは被害が及ばなかった町の宿屋だ。私はあのあとすぐに国に帰っていたが、さっきここに戻ってきた。……父の葬儀は、済ませたよ」
珀伶は懐から布に包まれたものを取り出し、ゆっくりと布を解いた。
布の中から現れたのは、あの短刀だった。
目を見開く香蘭に、珀伶は短刀を差し出した。
香蘭はおそるおそる手を伸ばし、そっと受け取った。
短刀にはもう何の力も残っていない。
力も悲しみも憎しみも、すべてが消えていた。
柄に刻まれた桜を、香蘭は指でなぞった。
「……」
お父様……
……秋蛍さま。