鈴姫
黙ってしまった香蘭は、着物の裾をきゅっと握りしめた。
香蘭の事情を知っている憂焔は、侍女たちが出て行った方に顔を向けながら、ちっ、と舌うちして腕を組んだ。
「気に食わない。しまいには俺のことも悪く言ってたしな」
「……そうね。ありえないことだわ」
香蘭は頷き、そのまま地面に視線を落とした。
自分が大切にされていないのはよくわかっていたし、それは仕方のないことなのだと思ってきてはいた。
けれど、やはり王族としての誇りが香蘭にもあった。
憂焔にきっぱりとそう言われて、なんとも悲しい気分になった。
「香蘭、そんなに気を落とすなよ。香国にはお前をいじめるような醜いやつはいないからさ」
香蘭の気が沈んだのに気付いた憂焔が、彼女の肩を励ますように軽くたたくと、香蘭は顔をあげ、少し微笑んだ。
「案外、憂焔が一番に私をいじめそうよね」
「お望みなら、毎日池に突き落としてやるよ」
「ひどいわ」
香蘭は口元に袖を当ててくすくす笑い、憂焔を見上げた。
もう、悲しいだなんて思うことはない。
この人はきっと、私を守ってくれる。
そして私も、彼を支えていくわ。