鈴姫
ぶわりと込み上げてきた苦しいほどの悲しみに胸を押さえて蹲ると、具合が悪いと思ったらしい珀伶が慌てて香蘭の体を横にさせようとした。
「まだ横になっていたほうがいい。ただ、君が起きるのを心待ちにしていた奴がいるから、ちょっと呼んできてあげよう」
珀伶は丁寧に香蘭に布団を被せ、部屋を出て行った。
扉が閉まるのを見届けてから、短刀を握りしめた。
目を閉じれば、瞼の裏に二人の姿が浮かび上がる。
香蘭は短刀を胸に抱え込んで、布団の中でまるくなった。
「香蘭」
しばらくして部屋の扉を叩く音がし、香蘭は慌てて涙を拭った。
どうぞ、と声を掛けると、そっと扉が開かれ、心配そうな表情をした憂焔が顔をのぞかせた。
「もう大丈夫なのか?」
「うん……。ちょっとだけ、まだ頭が重いけど」
香蘭が体を起こそうとすると、憂焔は慌てて飛んできてそれを止めた。
「まだ寝てていいって」
「お兄様と同じようなことを言うのね」
くすくすと笑い、もう平気だと言って体を起こした。
憂焔は香蘭が笑っているのを見てむっとしていたが、やがて肩の力を抜いた。
「この国の復興には、華京も、お前の兄上も、協力してくださるそうだ」
「お兄様も……」
「俺はこの国を建てなおす。香蘭も力を貸してくれないか」
憂焔が真っ直ぐに香蘭を見つめた。
琥珀色の瞳に彼を見つめ返す香蘭が映る。
憂焔の言わんとするところを察して、香蘭は瞳を揺らした。
そしてふっと、目を逸らす。