鈴姫
数か月後、国は再び活気を取り戻した。
兵士が踏み荒らした街は復旧し、王宮は再建された。
王宮の奥に佇む池は清められ、底が見えるほどに透き通った綺麗な水を湛えている。
それもこれも、憂焔が尽力を尽くした賜物だった。
あの出来事の後、鈴、香、鏡は、宝はこれまで通りそれぞれの国で持ち、力の均衡を保つことにした。
鈴も鏡も、資金の援助をしたり人を送ったりして香の復興に協力した。
香蘭は香国に残り、親を亡くしたこどもたちの支援をするために国中を駆け回った。
今日もこどもたちを川に連れて行き、日が落ちてくるまで相手をして過ごした。
「どうぞ。これはわたしの国から送られてきたお菓子よ」
「わあ、ありがとう」
こどもたちを施設に帰す前に、香蘭はこどもたちに菓子を手渡した。
こどもたちはそれを受け取り、皆嬉しそうに頬張る。
初めは悲しみに暗く沈んでいたこどもたちも、春の訪れとともに笑顔を取り戻していった。
「香蘭先生、またね!」
夕暮れの、橙色に染まった道を駆けていくこどもたちの背中を笑顔で見送り、香蘭は王宮へ戻るべく踵を返した。
息をついて、空を見上げる。
だいぶ日が落ちるのが遅くなってきたようだ。
もうすぐ、夏がやってくる。
「おかえり」
王宮に戻ると、ハルが飛び跳ねるようにして出迎えた。
本来なら彼女は鏡国へ行かなくてはならないが、まだ香蘭のそばにいたいと言って聞かないので、香蘭が鈴に帰るときに送ることになっている。
「調子はどう?」
「だいぶいいわ」
本当はあれ以来ずっと体が重いけれど、ハルを心配させないために嘘をついた。
ハルは良かった、と目を細め、次の瞬間には何か思い出したらしく香蘭の腕をぐいぐい引っ張った。