鈴姫
秋蛍と笙鈴
黒く醜い魔物に短刀を突き刺し、己が持つすべての力を注ぎこむ。
目を開けていられないほど眩い光の中、香蘭の叫ぶ声が聞こえた気がした。
けれどもう彼女のもとへはいけない。
ここで間もなく消滅するのだから。
彼らが生み出した魔物とともに。
もう終わりかというとき、白く細い手が秋蛍を引き上げた。
光の中から引き上げられ、淡い空色の世界へと連れ出された。
魔物の姿はどこにもない。
もちろん香蘭の姿も、ハルの姿もなく、秋蛍はただ空色の世界に浮かぶようにして存在していた。
「あれは、もう消滅しました。お疲れ様です、秋蛍」
目の前で微笑むのは、笙鈴だった。
秋蛍をここへ連れ込んだのはきっと彼女だ。
「笙鈴……」
彼女の名前を口に出す。
五百年振りの再開。
当たり前だが、彼女の姿はあの頃と全く変わらない。
笙鈴は答えるように笑って、秋蛍の手をとった。
「久しぶりですね。またこうして相見えるなんて夢のよう……」
本当に懐かしそうに、笙鈴は秋蛍の頬に手を滑らせる。
その手をとり、秋蛍は首を振った。
「あってはならないことだった。こんな形で再会するなんて」
「相変わらず手厳しいのですね」
笙鈴は眉を下げ、頭を垂れた。
長く美しい髪が、風もないのにさらりと揺れる。