鈴姫
「王宮へ上がってから―――」
笙鈴は何かを思い出すように目を閉じ、ほっそりとした手を胸にあてた。
そこに何か大切なものをしまってあるかのように、そっと。
「わたくしは国王様をお慕いしました。本当によくしてくださいました。そして恋をしましたわ……確かに、恋を」
そこで目をあけ、その瞳に秋蛍を映す。
彼女は少し眉を下げ、秋蛍に笑いかける。
「それでも、あなたにあったとき心が揺らいでしまった。きっとそれで罰が下ったのです」
「笙鈴のせいではない。あれは……」
悲しそうに微笑む笙鈴に秋蛍は思わず手を伸ばしたが、笙鈴は首を横に振ってその手を拒んだ。
「彼女を愛しているのでしょう?」
秋蛍ははっと手を引っ込め、真っ直ぐに見つめてくる笙鈴から目を逸らした。
それでも彼女の視線から逃げられるわけではなく、やがて観念したようにぽそりと呟いた。
「見ていられなくて……目が離せないだけだ」
素直じゃないわね、と笙鈴は肩を竦める。
「あなたはわたくしのために、五百年の時を一人で生きました。ついでにもう少しあちらで過ごしてみてもよろしいのではなくて?」
眉を顰める秋蛍をよそに、空中にすらりと手を伸ばし、どこから現れたのか二つの光の玉をその手にとった。
それを大事そうに胸に抱え込み、秋蛍に華やかな笑顔を見せる。
「宝焔殿と紅玉姫は、わたくしが一緒に連れていきますわ」