鈴姫
「行きましょうか、憂焔。髪はこれでいいわ。どうせ短いのだから、結わなくても一緒よ」
着物の裾を少し持ち上げて、部屋を出ようとすると後ろについてきていた憂焔に腕をつかまれてしまった。
どうしたのかと振り向くと、憂焔は香蘭を自分のほうに引き寄せた。
「とっておきの化粧をしてやるよ」
え、と思ったときには憂焔の顔は鼻が触れるほど近くにあり、彼は戸惑う香蘭の頬に手を滑らせ、目をじっと見てきた。
まさか、と香蘭が息を飲んだ瞬間、唇が重なった。
初めての感覚に香蘭は目を見開いて固まっていた。
柔らかな彼の唇を、感じる。
自分の、唇に。
香蘭はかあっと赤くなって、慌てて憂焔の胸を押しやって引き離した。
「ちょっと、待って、憂焔。だめ、だめ。こういうのは、香国でちゃんと式を挙げてからよ!」
憂焔は不満げに肩を竦めたものの、すぐに笑みを浮かべて香蘭の頬に触れた。
「ほら、いい具合に顔色が良くなった。」
あっと香蘭が自分の頬にやると、熱い頬の熱が伝わった。
憂焔はにやにやしながら香蘭の頭にぽんと手を乗せ、「先に行ってる」と言い残して部屋を出て行った。
熱い頬に手のひらをあてたまま、香蘭はしばらく動けなかった。