鈴姫
城の前には大勢の人々が集まり、出発を祝うべく、手に手に花びらの入った籠を持って二人を出迎えた。
豪勢な馬車の前で、憂焔と香蘭は鈴王に挨拶をした。
「憂焔王子、娘を頼むぞ。この子は扱いにくいと思うがな」
「お任せください。きっと幸せにしてみせます」
鈴王は憂焔の手を握り、続いて娘のほうに顔を向けた。
「香蘭、お前も粗相がないように。憂焔王子をしっかりと支えていくのだ」
「はい、お父様」
返事をしながらも、香蘭は父王の後ろをうかがった。
いつもはそこにいるはずの人を探して。
香蘭がきょろきょろと誰かを探すように辺りをうかがうのを見て、鈴王は誰を探しているのかすぐにわかったらしく、首を横に振った。
「珀伶はお前が嫁にいってしまうのが相当堪えたらしくて、部屋から出てこなくてな。兄を恨むでないぞ、お前が大切であるが故なのだ。わかってやれ」
「はい。お兄様の性格は、私もよくわかっております。恨むなんてしません」
「それでいい」
鈴王は頷き、目を閉じた。
そして深く息を吸うと、辺りに響く大きな威厳のある声で二人の出発を皆に伝えた。
人々は待っていたかのように一斉に花びらを二人に雨のように降らせた。
白や淡い黄色、薄紅の花びらがひらひらと舞う。
幻想的な光景に目を奪われていた香蘭に、憂焔がすっと手を差し出した。
その手を見つめ、彼を見上げると、憂焔は優しく微笑んでいた。
香蘭も頬が緩むのを感じ、差し出された手に自分の手をそっと重ねた。
きっと幸せになれる。
そんな暖かな想いを胸に、憂焔に手を引かれて馬車に乗った。