鈴姫
母は香蘭を生むとともに亡くなり、王は香蘭を捨てはしなかったものの近づこうとはしなかった。
侍女たちも王の香蘭に対する態度を知っていて、咎められないのをいいことに表向きは世話を焼いているように見せかけて、好き放題嫌がらせをしてくる。
今日も香蘭は侍女たちから髪を切られ、腹を立てて城を飛び出してきたのだ。
「かわいそうに。これではわたしのとそう変わらないじゃないか。ひどいことをする」
珀伶は香蘭の肩ほどに短くなった髪に手を伸ばした。
さらさらと、珀伶の手から腰まであったはずの艶やかな黒い髪がこぼれ落ちていく。
「誰がやったのか言ってごらん。わたしがその者の髪をすべて抜いてやるから」
「だめよ、そんなことしなくていい。お兄様が悪者になっちゃうもの。」
香蘭はあわてて首を横に振った。この兄は、本当にそういうことをしかねない。
前にも香蘭の寝間に蛇をしかけられたことがあって、そのときは蛇をしかけた侍女を鰐に食わせようとしていた。
普段は優しい人物であるが、たまにとても冷たいところがあるのだ。
「悪者でも構わないよ。懲りない奴らには、痛い目に合わせなくては気が済まない」
「いいの。それに私、この髪気に入ったわ。今気づいたんだけど、お兄様と同じ髪型だ」
そう言って、笑いながら自分の髪をそっと撫でると、いつもより短い毛先にたどり着いた。
強がってはいるものの、やはり髪を切られたことは悔しいし悲しい。
香蘭の表情を見逃さなかった珀伶は、眉を下げてふっとわらうと、懐から何かを取り出し、香蘭の髪を一房手にとった。