鈴姫
ガタガタと時折大きく揺れる馬車は、それほど乗り心地のいいものではなかったが、そんなことは気にならないほど、香蘭は幸せな気分に浸っていた。
窓の外を流れていく景色を眺めていると、憂焔が大きなあくびをした。
「来るときも結構時間がかかったからな。道のりは長いぞ」
うんざりとした顔で憂焔が言うと、香蘭は平気よ、と首を横に振った。
「私はどんなに長い間ここに閉じ込められていようとも、城の外っていうだけで耐えられるわ」
「そうかい。君はけなげだね」
信じられないとでも言いたげな視線を香蘭に向けてから、俺は寝よう、と言って憂焔は寝る体勢をとってしまった。
憂焔が目を瞑るのを見てから、香蘭はまた窓の外に視線を戻す。
見たことのない景色に目を奪われ、ずっと胸がドキドキしていた。
香蘭がいつも城を抜け出したときに向かう森や川とはまた違う、先が見えないほどまっすぐに続く道や、田畑を耕す人々に胸を高鳴らせる。
あの狭い城を抜け出して、私は香国に行くのだわ。
香国に行けば、きっと私は今までより自由になれる。
なんて夢みたいなことかしら!