鈴姫



す、と鈴に指を滑らせた瞬間、馬車がひっくり返りそうなほどに大きく揺れた。


香蘭は悲鳴をあげ憂焔に縋り付き、衝撃で目を覚ました憂焔は彼女を腕に抱きながら、何事かと窓の外を見やった。


夕暮れに染まってきつつある景色は、いたって平和で、雲もゆっくりと動いている。




ただ、なにかがおかしかった。




馬車は大きく揺れたあとから少しも動かないで留まっている。




ぴりぴりとした空気が、外から馬車の中に入り込んでくるような感じがした。



「香蘭、まずいぞ」


「え……?」



憂焔の腕に抱かれたまま、香蘭は彼を不安げに見上げた。


さっきまで呑気に眠っていた彼の目は、鋭く馬車の戸にくぎ付けになっている。



憂焔が右手で懐剣を取り出すのを見て、香蘭はきゅっと手を胸元で握りしめた。
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