鈴姫
一体、何が起こっているのだろう。
馬車はまだ動く気配がない。
何の音も聞こえない。
ただ何かを待つ静けさだけがそこにあった。
何も起こらないのではないか、と思われたとき。
突如、ダン、とひとつ大きな音がし、馬車がまた揺れた。
それをきっかけに、大きな音は衝撃とともにどんどん早くなり、馬車も揺れ続けた。
香蘭は目をつぶり、憂焔にしがみついた。
怖くて怖くてしかたなかった。
音がなるたびに恐怖は募り、じっと身を固める。
そしてついに、木が砕け散る音とともに馬車の戸が打ち壊された。
木の破片が香蘭をかすめ、香蘭ははっと目を開けた。
壊された戸から腕が伸びてくる。
「憂焔!」
引っ張り出されたのは香蘭ではなく、憂焔のほうだった。
憂焔は体勢を崩しながらもなんとか懐剣を構え、応戦しようとするが、どう見ても優勢なのは相手のほうである。
憂焔を引っ張り出した者が煌めく長剣を持っているのを目にしたとたん、香蘭は無意識に懐に手をやった。