鈴姫
「彼を殺さないで!」
香蘭は馬車から飛び降り、短刀を敵の喉に突き付けた。
相手は驚きに目を見開き、動きを止めた。
しかしそれは一瞬のことで、彼は両手を上にあげながらもにやりと口角をあげた。
「だめだろう、お姫様は可愛らしく、馬車の奥で震えていないと。」
香蘭は自分の命が危ういというのになぜ彼がおかしそうに肩を揺らして笑うのか、わけがわからずに眉を寄せた。
「何を―――」
「香蘭!」
ぐいっと腕をつかまれ、香蘭は誰かの腕に包まれるのを感じた。
鈍い音がし、振り返った香蘭の目に映ったのは、顔を歪ませて自分を抱きしめる憂焔。
ぽたりと音がして、そこに目をやれば、地面に滲む真っ赤な鮮血。憂焔の。
「ゆう、えん……?」
香蘭は震えながら憂焔の背中に手をまわした。
指先にふれた固い、憂焔の背中にあるはずのないものに思わず手をひっこめた。
彼は、刺されたのである。
香蘭を守るために。
「いや……、そんな。憂焔……」
涙を浮かべる香蘭に、憂焔は荒い息を吐きながらも微笑んだ。
「無事か?」