鈴姫
鏡国
香蘭は目を覚ました。
頬に感じる柔らかな感触に、寝台の上にいるのだとわかった。
体を起こそうとしたが、体が重く、思うように動かない。
おまけに手は、鎖で纏め上げられていた。
香蘭は頭だけを起こし、自分が閉じ込められている部屋を見回した。
どうやら香蘭がいるのはあの女性が言っていた「宮」の中のようだ。
冷たい白い壁に、この寝台とちいさな机以外は何もないようだったが、荒れた様子もなくむしろ清潔感があり、寝具も刺繍が施してあるものでどうみても高級そうである。
香蘭はまた寝台に体を預け、天井を見つめた。
天井にも豪華な模様が彫られていて、ここは宮だと確信した。
「憂焔……」
ぽつりと呟いて閉じた目からは、涙がぽろりと零れ落ちた。
この部屋のどこを見ても、彼はいなかった。
憂焔はきっと殺されてしまったのだろう。
従者たちですら皆殺しだったのだから。
目を閉じれば思い出すのは彼の血の匂いと、痛みに歪んだ顔、香蘭を抱きしめる彼の腕。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
自分たちはこれから、幸せに生きていくはずだったのに。
憂焔を支えて生きていこうと、誓ったばかりのはずなのに。
堪えきれずに嗚咽を漏らすと、きっちりと閉まっていた扉が開き、誰かが入ってきた。