鈴姫
「何?」
髪に手をやろうとしたが、珀伶に制されて手を下ろした。
「いいから、じっとしておいで」
香蘭は言われたとおりに体はじっと動かないでいて、ただそれでは退屈なので口だけは動かした。
「私ね、この黒い髪が一番の自慢なの。」
「へえ、どうして?確かに綺麗だけど、香蘭なら他にも自慢できるものはあるだろ?」
「妹にそんなお世辞を言ったって、何の得にもならないわよ」
「それもそうだ」
笑いあい、香蘭は髪をいじられている心地よさに目を閉じた。
「この髪だけが、お兄様と同じなの」
「同じ?」
「お顔も似ていないし、瞳の色だってお兄様はきれいな宝石みたいな藍色で、私は闇のように真っ黒だわ。でも、髪だけは同じだもの」
「……できたよ、ほら」
珀伶は髪から手を離し、香蘭に手鏡をみせた。
香蘭は鏡に映った自分をみて、口をまぬけに開いた。
彼女の髪は、先ほど珀伶がとった房のところだけきれいに編まれ、毛先のほうに可愛らしい鈴がついていたのだ。