鈴姫
「その馬車を、我等は襲った。これで香と鈴は、鏡国を攻撃する事実上の理由ができたわけだ。王子と姫を殺そうとしたとな」
その表情に影を落として話し続ける華京王女を、香蘭は黙って見上げていた。
「手を組んでいたのは香と鈴のほうだったのだ。まあ、香は言葉通り第一王子を寄越したわけだが。人質にはならぬだろう」
忌々しそうな表情を浮かべたあと、自嘲ぎみにふっと笑い、彼女は香蘭と目を合わせた。
「そこで、お前に話があるのだ」
「え?」
香蘭はいきなりのことに目を瞬かせた。
華京は香蘭と目を合わせたまま、言葉を続けた。
「そなたには、食客としてここにいてもらう」
香蘭は意味がわからずに眉を顰めた。
「敵国の食客など嫌であろうが、どういうわけかお前の能力は鏡に属するもの。鍛えればきっと役にたつ」
能力、というのが何のことを指しているのかわからなかった。
しかしそれ以上に気になったことを尋ねるために、香蘭は口を開いた。
「それは、つまり……鈴国を敵にまわせということなのですか……?」
「そう。鈴はお前を見捨てたのだ。戻るつもりはないだろう?」
確かにそうだ、と香蘭は俯いた。
鈴王は香蘭を見捨てた。
死んでもいいと思っていたのだ。
そんなところにどうして帰ることができようか。