鈴姫
「そうはいっても」
華京は表情を和らげ、俯いたままの香蘭の頬に手をやり、そっと顔をあげさせた。
「そう簡単に敵につくことはできぬだろうな。ならば、私が理由を与えてやろう」
香蘭は綺麗な紫色の瞳をじっと見つめた。
そのため、華京の表情が真剣なものに変わるのをはっきりと見た。
「我等は憂焔王子と鈴の国民を香蘭姫に対する人質とし、香蘭姫は食客となることを命ずる」
窓の外で鳥が飛び立った。
羽音が遠ざかり、やがて消えゆく。
憂焔皇子はもちろん大切な存在。
鈴国は、香蘭を捨てたけれど
何の罪もない鈴の民を、見捨てることはできない。
伯玲のことだけが、気がかりではあるけれど。
もし捕まるようなことがあれば、命だけは懇願しよう。
「……わかりました。」
香蘭が小さく返事をしたのを聞いて、華京は満足そうに手を離した。
「憂焔や国民には手を出さないと誓ってください」
「ああ、誓おう。兵士は攻撃せざるを得ないが、その他の者には手を出さない」
香蘭はほっと息をついた。
この華京王女は、きっと約束を守ってくださる…。