鈴姫
「そうと決まれば、そなたに会わせたい者がおる」
「会わせたい?」
「ああ。……秋蛍!」
華京王女が美しい声を響かせると、部屋の扉がすぐに開いた。
「お呼びでしょうか、華京様」
そこに姿を現したのは、黒い着物に身を包んだ男だった。
香蘭はどこかで見たことがあるような気がして、記憶を探りながら彼をじっと見つめた。
「香蘭、この男は秋蛍。そなたの師匠となる」
「し、しょう?」
香蘭が目を瞬かせていると、華京が香蘭の手を引き立ち上がらた。
「秋蛍、こちらは鈴国の姫君、香蘭姫じゃ。この者はきっと役に立つようになる。しっかりと御教授して差し上げよ」
「はい」
秋蛍は頭を下げた。
香蘭はその様子を見つめていたが、顔をあげた秋蛍と目があって慌てて視線を逸らした。
「それでは香蘭姫、こちらへ」
秋蛍に呼ばれて、戸惑いながら華京を見ると、華京は笑顔で香蘭の背中を押した。
「行くがよい。きっとそなたの力になろう」
香蘭は頷き、先に歩き始めた秋蛍のあとを追って部屋を出た。