鈴姫
秋蛍に連れられてやってきた場所は、薄く水の張った何もない広い部屋だった。
何だか嫌な感じのする部屋で、水面に映る自分の姿がゆらゆらと揺れていた。
歩くたびに水の輪ができて広がっていく。
「華京様は……」
部屋を出たときからずっと背中を向けていた秋蛍がここにきて初めて振り返り、口を開いた。
「香蘭姫殿を気に入られたようだ」
香蘭は小さく口を開き、驚きの表情を浮かべた。
あの美しく賢そうな華京王女に気に入られたと聞くと、やはり嬉しい。
秋蛍は香蘭の様子に顔をしかめて、横を向いた。
「だが、俺は気に入らない。敵国の姫がいつ裏切るかわからないからな」
「………」
落胆しつつも、それはそうだろうと思った。
ここにいる人たちにとって香蘭は敵国の王族である姫で、そう簡単に受け入れてもらうことはできないだろう。
香蘭は何も言わないかわりに、目の前の人物を改めて見た。