鈴姫
一言で言えば、彼は美しい。
着物は何の模様もなく、ただ闇のように黒が広がっていて、その上を女かと間違えてしまいそうなほどの黒くて長い髪が覆っている。
彼ほど黒が似合う人はいないのではないかというほど、黒は秋蛍の美しさを引き立てていた。
そして香蘭のことを気に入らないと言った口は、先ほどまで不機嫌に引き結ばれていたのに、今や香蘭の落胆した様子に満足しているのか弧を描いている。
全てが黒で包まれている中、ひとつだけ黒ではないのが彼の瞳だった。
見たことのない黄緑色の宝石のような不思議な瞳が、一際輝いて見えた。
秋蛍は懐から何かを取り出し、不思議そうにそれを見つめる香蘭に手渡した。
それは丸くて平たいもので、無地の赤い布と紐で包んであった。
「紐をとけ」
秋蛍に促されて、苦労しながら紐をとき、布をはずした。
「これは……」
それにはっきりと映る自分を見て、それが何であるかを認識した途端、またいつもの眩暈が香蘭を襲い、少しよろめいた。
その様子を黙って見ていた秋蛍は、また不機嫌そうな表情になった。