鈴姫


と、香蘭はすぐに心臓が止まりそうになった。

香蘭のまわりを取り囲むように、秋蛍が何人も立っているのである。


「こ、これは……!?」


香蘭はどこを向いたらいいかわからず、前や後ろに何度も顔を向けた。


「ただのまやかしだ。この程度では、相手を傷つけることもできない」


秋蛍の声が聞こえたと思った途端、何人もの彼はぼやけて消えた。

ただ一人、間抜け面の香蘭を見て面白そうに口角を上げる彼だけを除いては。


「………」


「鏡を使った術のひとつだ。このような水鏡のある場所では、まやかしを作り上げることもできる」


「水鏡……それで……」


足下に目をやり、少し足を動かすと、水が小さな波紋を作った。


なるほど、この水張りの部屋はそのために。


「この部屋はそれだけではない。鏡よりははっきりと姿が映らない分、“流れ”も弱い。まだ操れない者が、ここで慣れるための部屋だ」


香蘭の心を読んだかのように秋蛍が付け加えた。


「だからこの部屋は嫌な感じがするのね」


少しずつ、香蘭の気を乱していたのだ。

妙に納得して、同時に早くこの部屋を出たいと思った。




< 49 / 277 >

この作品をシェア

pagetop