鈴姫
と、香蘭はすぐに心臓が止まりそうになった。
香蘭のまわりを取り囲むように、秋蛍が何人も立っているのである。
「こ、これは……!?」
香蘭はどこを向いたらいいかわからず、前や後ろに何度も顔を向けた。
「ただのまやかしだ。この程度では、相手を傷つけることもできない」
秋蛍の声が聞こえたと思った途端、何人もの彼はぼやけて消えた。
ただ一人、間抜け面の香蘭を見て面白そうに口角を上げる彼だけを除いては。
「………」
「鏡を使った術のひとつだ。このような水鏡のある場所では、まやかしを作り上げることもできる」
「水鏡……それで……」
足下に目をやり、少し足を動かすと、水が小さな波紋を作った。
なるほど、この水張りの部屋はそのために。
「この部屋はそれだけではない。鏡よりははっきりと姿が映らない分、“流れ”も弱い。まだ操れない者が、ここで慣れるための部屋だ」
香蘭の心を読んだかのように秋蛍が付け加えた。
「だからこの部屋は嫌な感じがするのね」
少しずつ、香蘭の気を乱していたのだ。
妙に納得して、同時に早くこの部屋を出たいと思った。