鈴姫
「今日はここまでだ。体調が万全ではないだろう。部屋へ戻れ、続きは明日やる」
早くこの部屋を出たいと思っていた香蘭は内心ほっとしながら頷いた。
「……最後に」
部屋を出ようとした香蘭を、秋蛍の声が捕まえた。
「鏡を鎮めるのが、俺とお前の役目だ」
「鏡を鎮める?」
どういうことか理解できずに眉を寄せると、秋蛍は香蘭の横をすっと通りすぎた。
「あとは華京様に聞いてくれ。俺は疲れた」
そのまま先に部屋を出ていってしまい、香蘭は口を開けたまま立ち尽くした。
「………」
どうやら彼は香蘭の体調を気にかけてくれていたわけではなく、自分が疲れているから早く切り上げたかったらしかった。
さっき、ほんの少しでも彼に優しさを感じたことをばかばかしく思った。