鈴姫
伯玲は頭が真っ白になって力が抜け、床に座り込んだ。
今にも倒れ伏してしまいそうな伯玲を、兵士が心配そうに支えた。
生きているのか、……いないのか。
それすらわからない状況で、ただはっきりしていることはただひとつ。
「父上」
座り込み、うつむいたまま伯玲が言葉を発した。
鈴王はそれに反応し、伯玲に視線をむけた。
「どうした、伯玲」
「私は父上を許せません。父上が香蘭を香国に嫁がせようなどとお思いにならなければ、こんなことにはならなかった」
「………」
鈴王は黙り、文机の上に視線を落とした。
「しかし」
伯玲の続く言葉に、鈴王は落としたばかりの視線をあげた。
「一番許せないのは、鏡国でございます。なぜ香蘭を手にかけねばならなかったのか。納得できません」
「うむ」
「父上、どうかお許しを」
「何を許すのだ」
伯玲は鈴王のほうへ向き直り、床に額をつけた。
はっきりしているのは、そう。
「私は、……鏡国を敵とみなし、攻め入りたく思います」
鏡国が敵、だということ。
鈴王は黙って聞いていたが、やがてゆっくりと頷いた。
ただ、頭を下げていた伯玲は気づいていなかった。
「ああ、許そう。……我らの、愛しい香蘭のために」
鈴王の口元が、不気味な笑みを浮かべていたことに。