鈴姫
「きゃっ」
突然、手鏡を覗き込んでいただけのはずの香蘭が小さく悲鳴をあげて、地面に崩れ落ちた。
「香蘭!?」
驚いた珀伶は急いで香蘭の背を支えた。
「どうした?具合が悪いのか?」
「ううん、違うの。ちょっと眩暈がしただけ」
香蘭は珀伶に支えられながら立ち上がり、裾についた葉を手ではたき落した。
「帰りましょう。あんまりお兄様の姿が見えないと、皆顔色を悪くして手当たり次第に探し始めるから」
平気そうに振る舞ってはいるものの、香蘭の顔色が悪いのをみて、珀伶は頷いた。
少し離れたところに繋いでいた馬のところに香蘭を連れて行き、自分の前に座らせると、強く馬の腹を蹴った。
馬は高く嘶くと、二人を乗せて林を抜けた。
香蘭は背中に兄の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
もう具合はよくなっていたが、具合の悪い振りをした。
拒絶することのない温もりが、家族であるということを感じさせ、香蘭はそれだけで幸せだった。