鈴姫
優しく汗を拭う手を額に感じて、香蘭はぼんやりと目を開けた。
霞む目に映る人物は、どうやら刀は持ってはいない。
今のは、夢だったのだ。
よかった、と香蘭は胸をなで下ろした。
「お兄様……」
「誰がお兄様だ」
降ってきた声に、香蘭は完全に覚醒して、目をぱっちりと開いた。
「えっ?秋蛍様!?」
秋蛍は不機嫌そうに口を結んで、香蘭を見下ろしている。
香蘭は慌てて体を起こした。
「ご、ごめんなさい。まさか秋蛍様だとは、その、思わなくて」
「別にいい。お前にどう思われようとどうでもいい」
ふい、と顔を背けてしまった秋蛍を前におろおろとしていると、くすくす笑う声がきこえてきた。
見ると、ちょうど華京が部屋に入ってきていたようだ。
「ああ、おかしい。香蘭、お前は秋蛍をからかうのがうまいな」
香蘭は勢いよく首を横に振った。
「からかっているわけでは……」
「リンがそんな器用なことをできるわけがないでしょう」
「リン……?ああ、香蘭のことか?まったく、お前はまたそういう呼び方をして
」