鈴姫
華京はあきれたように首を振り、秋蛍があけた椅子に腰を下ろした。
「それにしても、よかったな。もう戻ってこないかもしれないと思ったぞ。まあ、秋蛍がついていたからそこまで心配はしていなかったが。……何を睨んでいる、秋蛍。私はお前を信頼しているぞ」
「ええ、そう思っておきますよ」
秋蛍の態度に肩を竦める華京に、香蘭はあの、と口を開いた。
「戻ってこないかもしれないって、どういうことですか?」
香蘭の問いに、華京はすぐに真面目な顔になって、秋蛍に目で示した。
秋蛍は頷き、華京の変わりに説明を始めた。
「お前は、鏡の中に引きずりこまれかけていた。未熟な者が鏡の中に引きずりこまれてしまうと、二度とこちらに戻ってくることはできない……。どうやら鏡はお前を相当気に入っているらしい。お前、一体何者なんだ?」
「何者って……。私はただの、鈴の国の姫です。それ以外は何もありません」
眉を寄せる秋蛍に、香蘭はそう答えるしかなかった。
確かに自分は鈴国の姫で、それ以外の何者でもないはずである。
香蘭の答えを聞いて、華京は手元に視線を落とした。
「うむ。だが……これでは……。鏡を守るための訓練はできないな。今度こそ取り込まれかねない」
どうしたものか、と考え込む華京に、秋蛍が近づいた。