鈴姫


華京が出て行ってしまったせいで、部屋に静けさが広がる。


秋蛍が何か話してくれないものかと思ったが、秋蛍はどこか遠くを見つめるばかりで、それを期待するのは難しそうだった。

何もすることはないのに、どうして秋蛍は出て行かないのだろうと思いながら、仕方なく、香蘭はそっと口を開いた。


「あの、さっき、巫女って言いましたよね。鏡を鎮めろって」


秋蛍はちらりと香蘭のほうを見てから、またもとの方向に視線を戻した。


「ああ、言ったな」


「鎮めるって、私は何をしたらいいんでしょう」


「何も。ただ鏡の側にいればいい。それだけだ」


「それだけ、ですか?」


鏡のそばにいるだけなんて、なんて簡単なことなのだろうと思っていると、秋蛍はそんな香蘭の様子を察したのか、にやりと口角をあげた。


「ただ、間違っても鏡を覗きこむな。願いの鏡は、他の鏡とは桁違いの流れがある。下手をすると今度こそ戻ってこれなくなるからな」


戻ってこれなくなると聞いて、香蘭はごくりと唾を飲み、手元に視線を落とした。



戻れなくなる、ということは。




目を覚ますことができなくなるということだろうか……






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