鈴姫
「もう、大丈夫なのか」
「……え?」
ふいに、秋蛍が呟くように言ったことに、うつむいていた香蘭は顔をあげた。
「さっき、魘されていた。まだ気分が悪いのなら……」
黄緑色の瞳が、香蘭を気遣うように細められていた。
もしかして、と香蘭は胸を鳴らした。
一人になるのが辛いだろうと思って、この部屋に留まっていてくれたのかもしれない。
「いいえ、もう平気です……。気遣ってくださって、ありがとうございます」
「そうか……」
お礼を言うと、秋蛍は珍しく微笑んで、椅子から立ち上がった。
「よし、それでは早速鏡を持ってこよう。お前の務めなのだからな」
途端にいきいきとした秋蛍の意地悪な笑顔に、香蘭は間抜けな顔で秋蛍を見上げた。
そしてさっきのはやはり何かの間違いだ、と思い直す香蘭だった。