鈴姫
香蘭の部屋に鏡が持ち込まれてから、数日が経った。
香蘭は初めこそ鏡に引き込まれはしないかと警戒していたが、布を被せた鏡は香蘭に何の害も与えることなく、部屋の隅に居座っていた。
それどころか、秋蛍が言うには鏡は今までになく落ち着いている、ということだ。
香蘭にはまだ鏡が荒れているだの落ち着いているだのさっぱりわからないのだが、とにかく自分が役に立っていることが嬉しかった。
また、香蘭は真っ白な布の奥に隠れている鏡の前に座りこみ、じっとしていることが多くなった。
どうしてかわからないが、香蘭も鏡といることで気分が落ち着くような気がした。
鏡は綺麗な円形で、その面は香蘭一人をすっぽり包んでしまうほどに大きい。
布を外して鏡を見てみたいという気持ちに襲われるが、秋蛍が厳しくいいつけたことは守らなくてはならない。
何しろ、彼は香蘭の師匠であり、何が危険かはよくわかっているはずである。
彼のいいつけは守り、香蘭は何とか鏡の布を取るようなことはせずにいた。
鏡は香蘭の話をよく聞いてくれているような気がした。
楽しい話をすれば鏡も心なしか楽しんでいるように見えるし、香蘭が悲しんでいるときは慰めてくれているようだった。
そして、胸がざわめいて眠れないときも、鏡の前に座って涙を流せば、自然と心が落ち着けるのだ。