鈴姫


「今日も晴れて気持ちがいいわね、鏡さん。小鳥が気持ちよさそうに鳴いてるの、聞こえる?」


この日も香蘭は鏡の前で膝に手をまわし、にこにこと語りかけていた。


「まるで小さな子どものようだ。見ていられない」


急に背後から降ってきた声に、香蘭は驚いて振り向いた。


振り向いた先には秋蛍がいて、入口に寄りかかって呆れた視線を香蘭に向けている。


「……!あ!秋蛍様!また覗き見ですか、やめてください!」


香蘭が抗議すると、秋蛍は首を振りながら中に入ってきた。


「覗いていたわけじゃない。部屋に入ろうとしたら、お前が楽しそうに鏡に話しかけているから邪魔しては悪かろうと気を遣ってやっただけだ」


「じゃあ、ここに来ないでください」


「好きで来てるわけじゃない。俺だって鏡を守るのが努めだから、鏡のそばにいないといけないんだ」


不機嫌そうに言われて、香蘭もむっと口を結んだ。


秋蛍から目を逸らし、鏡を見つめた。


秋蛍が香蘭の隣に腰を下ろすのを感じた。


彼もまた、鏡を見ているようだった。


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