鈴姫
「昨夜……」
「え?」
秋蛍がぽつりと口を開き、香蘭は秋蛍のほうに顔を向けた。
秋蛍はいつもこうだ。
機嫌悪く黙っているかと思えば、急に口を開くから香蘭はその度に戸惑う。
首を傾げている香蘭に、秋蛍も顔を向けた。
「泣いていたのか」
秋蛍の言葉に、香蘭は驚いて目を見開くしかない。
確かに昨夜、香蘭は泣いていた。
いつものように鏡の前に座りこんで、涙を流していたのだ。
「どうして、それを……」
香蘭が瞳を揺らして戸惑いながら尋ねると、秋蛍は鏡に視線を戻した。
「鏡がそう言っている。お前がかわいそうだと」
「鏡が?」
そうだ、と秋蛍は言い、鏡に手を伸ばした。
そして布の上から、綺麗な指でそっと鏡の表面をなぞっていく。
「あの、香の王子のことか」
そんなことまでわかるのか、驚きを隠せないまま香蘭が頷くと、秋蛍はふん、と鼻を鳴らした。
「それなら泣くことはない。……目を覚ました」