鈴姫
憂焔のあきれ顔に、香蘭はくすりと笑った。
「それでね……。聞いた?」
「何を?」
「私、鏡国につくことにしたの。」
憂焔は息を飲んで、それから、香蘭の表情を窺いながら口を開いた。
「鏡国につくことにしたって……。いいのか。鈴国には兄上様がいるだろう」
香蘭は小さく頷いて目を閉じた。
「気がかりなのはそれだけよ。だけど、それが重大なの。私は、お兄様を傷つけるなんてできない。でも、もう鈴の力になりたいとも思わない……。どうしたらいいかわからないの」
「………」
憂焔は何と言ったらいいのかわからず、ただ苦しそうに眉を寄せる香蘭を見つめることしかで
きなかった。
「逃げたらどうだ、鈴の姫」
ふいに声がして、二人は一斉に扉の方を見た。
そこには秋蛍が腕を組んで、柱に背を預けて立っていた。
口元は笑っているが、その黄緑の目からは何を考えているのか読み取ることができない。
「敵にまわりたくない相手がいる、しかし華京様との契約上、鈴を敵に回さなくてはならない……。かわいそうだな、お前は」