鈴姫
少しもかわいそうなどとは思っていない、ということはその口ぶりからわかる。
俯く香蘭に、憂焔はわけがわからないという視線を向けた。
「契約?なんだそれ」
「聞いていないのか?鈴の姫は先日、華京様と契約を交わした」
秋蛍はにっと笑った。
「お前と鈴の民には手を出さない代わりに、鈴の姫が鏡に寝返るという条件でね」
「なっ」
憂焔は驚きに目を見開き、俯いたままの香蘭の肩を掴んだ。
「どうしてそんなことを。お前が全てを負う必要はないんだ!」
つい力が入って香蘭の肩を揺すると、香蘭は勢いよく憂焔の手を払った。
憂焔がしまったと思ったときには、もう香蘭は涙を浮かべて憂焔をまっすぐに睨んでいた。
「じゃあ、どうしたらよかったの?瀕死のあなたを置いて、何も悪くない国民を見捨てて逃げたらよかったっていうの?」
「俺は、そうして欲しかったのに。香蘭が苦しむくらいなら、俺は死んでも構わないよ」
「そんなの無理。無理に決まってるじゃない!」
香蘭が泣きながら憂焔の胸を何度も叩き、憂焔はもう何も言えなかった。
震える体から彼女の苦しみは痛いほど伝わってくるのに、今の自分は何もしてやれることがないと憂焔は気づいた。
ただ香蘭の体に腕をまわすことしか、今はできない。