鈴姫
「あの、私は“リン"ではなく“香蘭”なの。秋蛍様がそう呼んでおられるから勘違いしてるのかもしれないけど……」
「間違ってなんかいないよ。確かにリンだ。ね、秋蛍?」
「そうなのか……」
秋蛍はなぜか驚いたような顔をし、それから不機嫌そうに腕を組んで視線を窓の外へやった。
そんな秋蛍の様子を気にすることもなく少女は香蘭の体に腕を絡めてくる。
「嬉しいな。ねえ、わたしのことわからない?」
抱きついたまま少女が香蘭を見上げてきて、香蘭は眉を下げた。
「ごめんなさい……わからないわ。さっき見たとき、気になってはいたんだけど」
香蘭の答えに少女は落胆するどころか、一層嬉しそうにして秋蛍を振り返った。
「気になってたって!聞いた、秋蛍?わたしたちの結びつきを!」
「……勝手に結びついてろ。俺は忙しいからもう戻る」
秋蛍はふいと背中を向け、鍵を机の上に放り出してさっさと出て行ってしまった。
これでは逃げろと言わんばかりだったが、さっきの秋蛍の言っていたことからして、試されているのかもしれないと香蘭は思った。
「それで、お前何者なんだ?」