鈴姫
香国の王宮の庭の片隅には、静かな水面を湛えた広い池があった。
池は今宵の月をはっきりと映し、まるで空から月がそこに落ちてきたかのようである。
その水面を、じっと見つめる男の人影があった。
彼は肩まである髪を後ろで一つに束ね、時々まばたきをする以外は、人形のように動かなかった。
池を見つめる琥珀色の瞳からは、何も感情を読み取ることができない。
「宝焔様……」
そっと彼を呼ぶ声に、一瞬はっとしながらも、柔らかな笑みを浮かべて彼は振り返った。
「どうしたんだい、紅玉」
彼から少し距離を置いたところに、夜着姿の女性が立っていた。
色素の薄い髪は、今にも地面についてしまいそうなほど長く、月の光が彼女の美貌を静かに染め上げていた。
彼女は困ったように眉を下げて、宝焔の隣に並んだ。
「眠れなくて。宝焔様も、眠れないのですか?」
彼女の問いに、宝焔はすっと池へと視線をそらした。
「そうだね……眠れないよ」
「……」